【しんみり】桜が苦手だというお婆ちゃんの話
世田谷区でお婆ちゃんのお客さんをお乗せした。
春。
道中満開の桜があったのだけど、お婆ちゃんはあまり好きではないと言う。
聞けば戦時中、九段の方に住んでいたんだって。
靖国神社の近く。
東京のど真ん中ですね。
今でこそ千鳥ヶ淵は桜の名所として知られているけど、皇居のお堀だから本来は松が植えられていた。
終戦を迎える年、3月の大空襲では主に下町の方がターゲットで、九段周辺は大きな被害は無かった。
所が4月の空襲では焼夷弾が降ってきた。
当時17歳だった彼女は、木造の家にいては危険だと判断し、皇居の堀に逃げたのだそう。
松は燃えにくかった。
最初は。
しかし一度火がつくと酷く燃え上がるらしく、こちらの方が危ないと判断した為にまた家に戻ったんだって。
家は石に囲まれていたらしく、全焼は免れた。
でも住める状態ではなくなり終戦を待たずに引っ越した。
千鳥ヶ淵はその後、戦没者墓苑が建てられ、周辺には桜が植えられた。
それはもう見事な桜で、国内外から見物人が集まる程。
毎年テレビ各局は桜の季節になると千鳥ヶ淵の様子を流す。
でもお婆ちゃんはチャンネルを変えるんだって。
千鳥ヶ淵に限らないけど、桜を見ると焦燥感を感じるのだそうです。
焦燥感。
分かるわけはないけど、分かるような気がする。